おすすめクソビッチ

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翌日の話 そろそろ本格的に寒いな、と美沙は手のひらに吐息を溜めた。 とくに朝が冷え込む。 まだ白い息が浮かぶには早いが、それも時間の問題だと思える。 着々と季節は進み、時間は滝のように流れている。 学校に着くと、他の生徒が談笑をしていたりするなかで、いつもどおりガリ勉くんが読書をしていた。 「おはよう、ガリ勉くん」 「おはようございます、ウサミミさん。朝の挨拶とは珍しいですね」 「そうかしら。まぁ、久しぶりな気がするけれど」 たしかに、放課後まで言葉を交わさない日の方が多い。 なんとなく他にクラスメイトがいる場で会話をするのが気恥ずかしいというのもある。 「ということは、ガリ勉くんは放課後まで一日中だんまりの日も多いということね」 「どうしてそういうことになるんですか。僕だって人並みに誰かと遣り取りをしてますよ」 「たとえば、あなたがいつも座っている僕の前の席、そこの席の人と話したりもするんですよ」 美沙は意外そうな表情で、目を丸くした。 素直に驚いている。 自分の他にガリ勉くんと会話しているクラスメイトがいたことに驚いている。 「失礼なリアクションですね」 「許してよ。誰だってガリ勉くんに友達がいたなんて知ったら驚くと思うよ」 「友達だったらいるじゃないですか」 そう言ってガリ勉くんは美沙のことを指さす。 「面と向かってそう言われるとくすぐったいけど、私じゃなくて、その子とは友達じゃないの?」 「感覚的にはご近所さんに近いですね」 交わす遣り取りも、ほとんど事務的なことで、雑談なんてほとんど無い。 ご近所にしても、回覧板以外の交流のないドライな関係みたいな。 「友達増やしなよ」 「それを僕に言える立場ですか、あなた」 ガリ勉くんがそう言ったところで担任教師が教室に入ってくる。 美沙は黙って自分の席についた。 言えない立場なのは百も承知でござる、と心で呟いた。  
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