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翌日の話
「ねぇねぇガリ勉くん、私綺麗?」
マスクをつけた美沙が楽しそうにガリ勉くんに尋ねる。
「急に都市伝説チックに話しかけてこないでくださいよ。綺麗ですよ、綺麗です」
「こーれーでーもー?」
ぺろーんとマスクを外す美沙が、いたずらっぽい笑顔を見せる。
子供っぽい仕草で口元を隠す。
ガリ勉くんは釣られて口角を上げた。
また何かに影響されたのだろう。
「ネットで見たんだよー。口裂け女ってこわいねー」
口の両端を引っ張る美沙に、ガリ勉くんは溜息をもらす。
「わざわざどうして怖いものをネットで調べたんですか。バカなんですか」
「うるさいなー。いいじゃんべつに。怖いもの見たさってやつだよ」
「しかも、口裂け女なんて古いトピックをいまさら」
「伝説に古いも新しいもないと思うんだ。伝説は伝説だよ」
「急に格言みたいなこと言わないでくださいよ」
ガリ勉くんは呆れたように美沙に言う。
美沙は携帯を操作して、ガリ勉くんにそのページを開いて見せる。
ガリ勉くんはそこから顔を逸らす。
「どうしたの、ガリ勉くん。見てよ」
「いえいえ。僕は結構ですよ」
「あー、こういうの苦手なんだね?」
悪魔のような微笑と携帯の画面をガリ勉くんに向けながら、美沙が彼ににじり寄る。
「やめてください」
「ある日の夜のことである。仕事で遅くなった私は、誰もいない街灯も疎らな路地を歩いていた。すると、後ろから――」
「本気で怒りますよ」
ガリ勉くんがじっとりとした目で睨んでくるので、美沙もなんだか可哀想になって、さすがに口をつぐむ。
首をひっこめた彼女は、代わりに舌を出して肩をすくめた。
「今度いっしょにホラー映画見に行こうか」
「怒りました。あー、もう怒りましたよ」
「ごめんごめん」
謝りながら、また美沙は画面をガリ勉くんに見せる。
ひぃっと悲鳴をあげる彼を楽しそうに眺めた。
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