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翌日の話
めずらしく誰もいない廊下に、ガリ勉くんは眉をひそめる。
「あ、今日は土曜日でしたか」
もちろん、学校は休みだ。
世の中では土曜日も授業をしているような学校もあるけれども、ガリ勉くんの通っている学校はそんなに勉強熱心な人の集まる場所ではない。
それにしても、休みというだけで人気が本当になくなる。
いつも放課後に残っているから、誰もいない校舎というものにも慣れているけれど、休日の雰囲気とはまた違っている。
きっと日が高いというのも理由だろう。
自分の教室まで歩いて、がらりとドアを開ける。
雑に掃かれた床に、ホコリのかけらが舞っている。
「おはよう」
そこで、目を丸くした美沙と出くわした。
「おはようございます。どうしたんですか、土曜日に」
面食らった様子のガリ勉くんに、美沙も慌てたように尋ね返す。
「ガリ勉くんこそどうしたの」
「いや、別に言うほどの用事では……」
そう言って、ガリ勉くんは悟る。
あぁ、美沙も平日と間違えて学校に来てしまったのだと。
こんな偶然がありえるのかは知らないけれど、どうやら彼女の様子を見るに、自分と同じ感じだ。
そして美沙もまた、ガリ勉くんの様子を見て同じように悟ったのだった。
お互いが息をのむ。
この状況、先に白状をしたほうが負けだ。
「そうだ。何か用事があるなら付き合いますよ。何でも言ってみてください」
先に仕掛けたのはガリ勉くん。
美沙はぐっと口元に力を入れて、返答を考える。
「学校に忘れ物しちゃって。そういうガリ勉くんは何の用事なの?」
「僕も忘れ物を取りに来たんですよ」
「同じ言い訳を使いやがった、ずるい!」
「何ですか、ずるいって。やっぱりウサミミさんも曜日を間違えて来ちゃったんですね」
あ、と声をあげてガリ勉くんは自分のミスに気付く。
美沙はそこをすかさず、不敵な笑みで突く。
「『ウサミミさん"も"』ってことはガリ勉くんもそうなんだね」
「お互いに自白で自爆ってことで」
「何をきれいにまとめようとしているの」
二人で気まずそうな笑い顔を見せ合って、教室を出る。
「このあと、甘いもの食べに行かない?」
「嫌ですよ。帰って本読みたいですし」
「用事があるなら付き合うって、さっき言ったよね?」
ガリ勉くんは諦めたように肩をすくめた。
またもや自爆だった。
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