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十一月の話
「とろろってエロいよね」
そんなくだらないことを初っ端の話題に持ってくる美沙に、ガリ勉くんは溜息をつく。
この少女はもう少しまともなことに頭を使えないのだろうか。
ガリ勉くんはそう思いながら、一度彼女に向けた視線を手元の文庫本に戻す。
「ちょっと、無視しないでよ」
「無視はしてないですよ。ちゃんと一瞥してあげたじゃないですか」
「そんなそっけないリアクションが無視に含まれないなら世界からイジメという概念は半減するよ」
「それは良かったです。世の中の悲しみを少しでも和らげることができたみたいで」
べつにそういう話をしているわけじゃない。
美沙は頬を膨らませながら、ガリ勉くんの持っている本を奪い取る。
「とろろがエロいって話をしているのよ」
「じゃあ勝手に話を続けてくださいよ。そして本を返してください」
手を伸ばすガリ勉くんから、美沙は逃げるように席を立つ。
彼から奪い取った本を高く掲げて、返却する意思がないことを明確にする。
どうしてそんな子供みたいなことを。
ガリ勉くんも本を取り返すために、仕方なく席から立ち上がる。
美沙は臨戦態勢に入ったように身構えて、ガリ勉くんが自分の方に向かってくるのを待った。
ガリ勉くんはやる気無さそうに棒立ちをして、教室の出入り口の方を指さす。
「あ、あんなところにチンチンがあります!」
「え、おちんちん!?」
ぐいっと顔を背けた美沙に、その隙をついて接近するガリ勉くん。
ぱっと彼女の手から本を取り返すとガリ勉くんは何事もなかったように自分の席へ。
「そんなところにチンチンがあるはずないじゃないですか。それに気を取られるって、天然ビッチもほどほどにしてくださいよ」
「く、騙したんだね。ガリ勉くん!」
そんなくだらない遣り取りをいつも通りに交わして。
「そういえば、どうして急にとろろの話なんてしたんですか」
「昨日、金曜ロードショーでジブリ映画を見てね」
「あ、あー。はい。僕はラピュタが好きです」
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