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翌日の話
ぷ、という音が鳴った。
「ウサミミさん」
「女の子だっておならはするものよ」
「潔いですね」
「教室に私とガリ勉くんしかいないからね。誤魔化しようがないじゃないの」
ガリ勉くんは一度うなずいて、真顔で美沙を見る。
「くせぇですね」
「うっわ! それは嘘でしょ。え、まじで?」
「冗談です」
「いま真剣に傷ついたんだけど」
ガリ勉くんは可笑しそうに笑っているが、美沙は不服そうに頬を膨らませる。
ご立腹の彼女から、なんとか自然に話題を変えようとガリ勉くんは口を開く。
「そういえば、焼き芋を食べるとおならが出るって言いますよね」
「そうね。でも焼き芋って、そこまで食べる機会ないわよね」
たしかに、焼き芋は移動販売が多く、タイミングが合わないとなかなか買う機会もない。
この辺の市街地では焚き火をする家も少ないから、自分で作ることもしない。
「焼き芋、今年たべました?」
「食べてない。今日の帰りに売ってるところ探してみる?」
「いいですね。でも、焼き芋って当たり外れ激しいんですよね。当たりはすごく美味しいんですけど、運が悪いとめちゃくちゃパサパサしてるじゃないですか」
「あー、あのガッカリ感は異常だわ。口の中の水分ぜんぶもってかれる」
「でも牛乳と一緒に食べると意外とイケるんですよ」
ガリ勉くんが腰を浮かせ気味に言うので、美沙はにやつく。
食べ物の話題で熱くなる彼はなかなか珍しい気がする。
それに気付いたガリ勉くんはちょっと気まずそうに居住まいを正して、こほんと誤魔化す。
「昨日に引き続き、食べ物の話ばかりですね。僕らは」
「いいんじゃないの。平和で」
「ウサミミさんが食いしん坊なのがいけないんです」
「でもガリ勉くん、最近ちょっと太ったんじゃない?」
「え、マジですか」
「うそだよ」
「ウサミミさんは太りましたけどね」
「うーわ、今度はゆるさない!」
わりと本気のグーで殴られながら、帰りには焼き芋を買って帰った。
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