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十二月の話
とうとうこの季節がやってきたな、とガリ勉くんは溜息をついた。
イルミネーション。
サンタクロース。
テレビを付ければクリスマスのキャンペーンCMが溢れかえっている。
街のすべてが責めたてるような、そんな感覚。
あるいは被害妄想。
一年の中でも、せめてこの季節だけは幸せでなければいけない。
そんな強要めいた街の雰囲気に、どうしても気分が落ち込む。
「どうしてそんな暗い考え方なの。便乗して楽しめばいいのに」
「小さいころからクリスマスって文化を楽しんだことはないですからね。祖父はそういうのには無頓着でしたし」
むしろ、クリスマスを過ぎたころの、大晦日や年越しに重点を置いていた。
おせちを作ったり、年賀状を書いたり、もちろん大掃除をしたり。
それらに追われて、年末はクリスマスどころではなかったのだ。
「へぇ、意外とお金持ちのおうちだったの?」
「どうしてですか?」
「いや、なんか年末年始の行事とか重視する家って、富豪のイメージあるから」
「ドラマやマンガの見すぎですよ」
ガリ勉くんはちょっとバカにしたように笑う。
美沙はふーん、とつまらなそうな顔で彼を見た。
「ところでガリ勉くん。十二月といえば、クリスマスだけじゃないんだけど」
「そうですね。期末テストがありますね」
「違う違う! もっと大切なことがあるでしょ!」
「もっと大切なことって……、期末の結果が悪かったらウサミミさん待望のクリスマスだって補習ですけど。それより大切な事があるんですか?」
「あーもう、知らない!」
そっぽを向いて教室を出ていく美沙。
その後ろ姿が曲がり角で見えなくなったところで、ガリ勉くんはカバンから手帳を取り出す。
二十五日に赤ペンで丸印。
その数日前のところにも、丸印。
「はぁ、年末っていうのはお金がかかりますねー」
独り言をつぶやいて、ガリ勉くんは笑った。
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