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翌日の話
この時期になると、放課時間にはすでに日が沈みかけていたりする。
青紫色に染まった校舎の壁。
人工の明かりで照らされた教室。
いつもどおり机の上に本を広げて、食い入るように読んでいるガリ勉くんがいた。
「ウサミミさん、最近は放課後にお手洗いに行ってすぐに戻ってきますね。快便なんですか」
「女子に対してその質問はどうなのよ」
「単なる素朴な疑問でしかないので、答えたくないなら気にしないでください」
正直なところ、最近は“本当に”トイレへ行っているということだった。
つまり、少し前までは美沙はガリ勉くんに『トイレへ行く』と言って別の場所へ行っていた。
特定の場所というわけではない。
男の子のところだ。
一発ハメて戻ってくる、なんてことは度々あった。
「で、どうなんですか。快便なんですか」
「どうしてそんなに私の排便事情がそんなに気になるの?」
「いや、女子って便秘が続くとけっこう痔になったりするらしいじゃないですか。ウサミミさんが痔になったら存分に馬鹿にしてやろうと思いまして」
「快便です!すっごい快便!」
ガリ勉くんは本気で残念そうな顔をして、文庫本に視線を落とした。
美沙は疲れたような気分になって息を吐く。
そこで彼女は考える。
ガリ勉くんも、美沙の性質を理解しているうえで、まさか彼女の『トイレ行く』を本当のことだとは思っていないだろう。
宇佐美美沙はウサミミクソビッチ。
そんなこと彼はよくわかっている。
もしかしてあの質問は、下手くそな嘘をつき続ける必要はないっていう、そういう気遣い?
美沙はじっとガリ勉くんを見つめる。
「そんなわけないかぁ。ガリ勉くんだもんね……」
「いきなり僕に落胆したような独り言を漏らすのやめてください。なんか馬鹿にされてます、僕?」
「いやいや、こっちの話」
「そっちの話をちゃんとこっちに話せってことです。何を僕に落胆してやがるんですか、イラっときましたよ」
「ガリ勉くんってもしかして痔なのかなぁって思っただけ」
「よーし、グーでパンチします」
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