祝福してください

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翌日の話 赤信号。 みんなで渡れば怖くないのかもしれないけど、しっかり待つのが美沙の流儀である。 むしろガリ勉くんなんて適当な方で、いつもの態度に反して赤信号でも車の影が見えなければ渡ってしまう。 「意外と不真面目なところ多いよね、ガリ勉くん」 「真面目とか不真面目とか、そういう話ではない気がするんですが」 ガリ勉くんは肩をすくめながら、いつもお得意の呆れ顔で美沙のことを見る。 単に待つ意味がないから待たないだけで。 事故の心配がないなら赤信号なんてただの飾りだ。 踏切と違って、赤信号になったら絶対に車が通るなんて決まりはない。 そもそも、信号を守ったところで事故に巻き込まれないなんて保障はないのだ。 青信号に変わったところで、二人で歩きはじめる。 最近、急に冷え込んできた。 カーディガンで身を包んだ美沙は、ぷるぷると身震いする。 「ブレザー着ないんですか」 「私が切ると不格好なのよ。カーディガンの方がかわいいの」 「女の子が体を冷やすのは良くないって聞きますが」 「おしゃれのためなら暑さも寒さも我慢するのが女子って生き物なのよ」 だったらおしゃれなコートでも買ってくればいい。 ガリ勉くんは目視可能な溜息を漏らして、カバンの中から手袋を取り出す。 「せめてこれくらい付けたらどうでしょうか」 「え、なにこれ」 「見てわからないんですか。手袋です」 「いや、わかるけども。これ女性用でしょ?」 「もちろんです。あなたは男性用の手袋をつけるんですか?」 混乱する美沙に、ガリ勉くんは赤面しつつ、コホンと咳払い。 「誕生日プレゼントです。ちょっと早いですが」 「え、え、覚えててくれたの?」 「はい。そろそろ終業式なので、渡すタイミングを逸してはいけないと思って。早めに準備しました」 美沙はだらしなく緩みそうになる顔を、なんとか保とうとするが、それでも気を抜くと、にへらっと頬が弛緩してしまう。 「えへへ、かわいい」 「気に入ってもらえましたか」 「正直、ガリ勉くんのセンスを見くびってました」 「素直に喜んだらどうですか」 「よろこんでるよー!」 ジャンプして抱きつこうとする美沙に、ガリ勉くんはまんざらでもなさそうな顔をして、努めてしかめっ面を保った。 そんな冬の日。  
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