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翌日の話
「ケータイ小説ってやつ、読んでみようかと思うんですけど」
「この前読んでなかったっけ?」
「いえいえ、出版されているものではなくて、こう、インターネット上で読めるやつです」
「あー、なるほどね。今はweb小説とか呼ぶんだよ」
美沙が自慢げに知識を披露する。
呼び方なんてどうでもいいではないか。
ガリ勉くんは自分のケータイを取り出して、その液晶に表示されたURLを美沙に向けた。
「これを読んでみようかと思って」
「それものすごい駄作って話だけど」
「そうなんですか。ランキング上位にいたので、てっきり人気作なのかと」
「日間ランキングなんて当てにならないよ。せめて半期とか年間ランキングを見ないと。あとタイトルとか作品説明に『異世界』とか『転生』って入ってたら要注意ね。素人は手を出さない方がいいよ」
ガリ勉くんは首をかしげて尋ねる。
「だけどランキング上位はだいたいそんな感じですけど」
「人気作ならハズレは少ないけど、異世界とか転生とかがモチーフの作品は九割が地雷だと思った方がいいよ。それでも好きな人は地雷原を突っ走って良作掘り起こしたりするけど」
やけに詳しい美沙に、ガリ勉くんは首をかしげて尋ねる。
「けっこうweb小説は読むんですか?」
「べつに。ときどき読む本がないときとか、無料だし」
「そこですよね。タダより高いものはないとも言いますし、無料だからこそクオリティにムラがある」
あぁ、ガリ勉くんは本好きが高じてとうとうムラを楽しむ境地にまで達したのかなぁ、と美沙は彼を眺めた。
しかし、ガリ勉くんはそうでもない様子で。
「なのでやっぱり紙の本を読むことにします」
「え、どうして。なんで」
「僕よりウサミミさんの方が詳しいジャンルっていうのが癪なので」
「素直になりなよ! いや、素直だけど!」
ガリ勉くんはカバンから文庫本を取り出して、何事もなかったかのように広げる。
美沙は自分のお気に入りのweb小説のURLを添付して、ガリ勉くんに送信した。
家に帰ってから既読がついたけど、果たして彼がそれを読んだのかは知らない。
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