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クリスマスの話
クリスマスに雪が降ると、特別な気分になる。
もちろん、電車は止まるし、車は走らないし、不便な事ばかりなんだけど。
そして今年のクリスマスは特に不便なことはなく、ただ寒いだけの、普通の日だった。
ガリ勉くんはコートを着込んで、誰もいない冬の道を歩いていた。
クリスマスだというのに人通りが少ないのは、逆に街の方が賑わっているせいだろう。
12月になってからどの店もキャンペーンをしていたし、同じモールに入っている飲食店も予約がいっぱいだと言っていた。
そこでどうしてガリ勉くんが街の方ではなく、住宅街の片隅を歩いているのかというと、そういう浮かれた雰囲気が苦手だからだ。
バイトでもないのに、あんなイルミネーションが絶えず明滅しているような空間を歩く趣味は無い。
まったく年末年始の忙しい時期に、よくもクリスマスなんてイベントに浮かれてられるな、と世間の意外と余裕な調子に悪態をつく。
不思議と敗北感が無いのは、今年は自分も浮かれた側の人間だからだろう。
今日は美沙の家に呼ばれている。
彼女の家に行くのは初めてだ。
家族の人に悪いからと一度は断ったのだけれど、
『大丈夫だよ。来ようよ』
『親とか家にいないし』
『いやらしいこともしないし』
『たくさん料理作るから』
『来なかったら余るから』
『来てくれないと私、クソビッチに戻るからね!』
いつの間にクソビッチを卒業していたのか。
着信履歴を見ると、最新三十件がすべて美沙で埋まっていた。
とりあえず何度も説得の電話がかかってきて面倒だったのと、ここまでお願いされたら、さすがに断るのも悪い気がしてきたというのが本当だった。
彼女の言うとおりに家に他の人がいないとなると、クリスマスを一人で祝うのも寂しかったのかもしれない。
ガリ勉くんはすっかり白い息を吐きながら、マフラーの中に顔をうずめる。
体中がなんとなくむず痒いというか、そわそわする。
ガリ勉くん自身も、クリスマスを同級生と過ごすなんて初めてのことだった。
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