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片手に持ったクリスマスケーキが揺れる。
彼女の家に向かう途中の店で買った物だ。
予約していたサイズが店側のミスで無くなってしまったという話で、それよりも大きいサイズの物を渡された。
代金は小さいサイズの値段でいいと言われたし、大は小を兼ねるというからそのまま受け取ってきた。
メリークリスマス、と。ハッピーバースデー。
住宅街に馴染んだ、目につく特徴のない家が美沙の自宅だった。
同じ型の家が並んでいるから、建売物件なのだろう。
インターホンを鳴らすと、美沙の上擦った声が聞こえてきた。
『もしもし』
「これ、電話じゃないんですけど」
『あ、そうか。えへへ』
美沙のテンパる様子に、ガリ勉くんは思わず笑みがこぼれて、彼女がドアを開けるのを待った。
サムターン錠の回る音に数秒遅れて、美沙が扉の後ろから姿を現す。
「いらっしゃい」
白のフリルがついたワンピース。
普段の彼女のイメージとは離れた、落ち着いた印象の服装で、髪の毛は下ろしていた。
軽くウェーブのかかった髪の毛を揺らして、頬を赤らめた美沙がガリ勉くんを迎え入れる。
美沙の姿にガリ勉くんは一瞬だけ呆然としてしまって、その場で硬直していた。
あまりに彼が何も言わないので、美沙は眉尻を下げて頭の後ろを掻いた。
「へ、変かな……」
「ぜんぜん変じゃないです。カワイイです」
おもわず口をついて出た感想に、ガリ勉くんは口元をおさえる。
美沙はさきほどよりも顔を真っ赤にして、照れ隠しの笑顔を浮かべていた。
「あ、寒いよね。中に入ろう」
「そうですね。お邪魔します」
ガリ勉くんはあくまで平静を装うつもりで声のトーンを変えないよう、心がけていたけれど、自然と声が上擦った。
くわえて、右手と右足が同時に前に出て、古いロボットみたいな歩き方をしていた。
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