待ってましたクリスマス

5/9

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「なんか、今年も色々あったね」 「今年"は"という表現の方が合っている気がします」 「そうかもね。ガリ勉くんと会ったのも今年になってからだし」 たしかにそうだった。 お互いに出会って(あるいは認識して)まだ一年と経っていないことが、とても不思議な感覚だった。 もっとずっと一緒にいたような気もするし、おそらくこれからもずっと一緒にいる気がした。 二人は同時に天井を見上げて、同時に息を漏らす。 「真似しないでくださいよ」 「そっちこそ。私のことを愛しすぎでしょ」 「愛してますよ。親友ですから」 「私だって愛してるよ。親友だもん」 そんな口先だけの会話を、いつも通りに交わして。 二人とも本心がどこにあるのかわからなくなっていた。 それでもこうしてクリスマスに同じ時を過ごしていることは事実で、実際の行動だけが美紗とガリ勉くんの本心を繋ぎとめている。 「ガリ勉くん、今日もたくさん食べるでしょう?」 「もちろんです。今日のために三日は食事抜いてきてますから」 「どんな意気込みだよ」 「冗談です。二日です」 という冗談を溢しながら、ガリ勉くんは湯気がいくらか治まった紅茶をふたたび口元に運んだ。 なんていうか、調子が出ない。 普段通りに言葉を交わしているようで、二人とも上の空といった感じだ。 無論、美沙の家で二人きりという今までにないシチュエーションに緊張しているからだ。 喉の渇きから紅茶のカップはすぐに空になった。 「その、こうして二人でクリスマスを過ごすって、楽しいですか」 「え、うん。楽しいよ?」 「僕も楽しいです。不思議です。僕はずっと、誰かと一緒にいて楽しいとか、なるべく思わないようにしていたので」  
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加