30人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
一緒にいられる時間は限られているから。
ずっと一緒にいられる気がしても、人と人はいつか離ればなれになる。
ガリ勉くんはいままで生きてきた十七年でそれを知っていた。
だから、最初から誰かと一緒にいて楽しいだなんて思わなければ。
そうやって過ごしてきた。
そして、美沙とこうして一緒に過ごすクリスマスも、今年で最初で最後だろうということは、容易に想像できた。
いつまでも二人ではいられない。
来年は受験もあるし、すぐに別れは来る。
彼女には彼氏もできるだろうし、自分もすぐに消えてなくなる。
ガリ勉くんはそう思っていた。
だけど、一瞬でも楽しいと思えれば、その時間に価値はあるのかもしれない。
少なくともクソビッチはそうやって生きているのだろう、と美沙から学んだ。
何もかもいつか失われていくなら、思い出は楽しい方が良い。
「紅茶を飲みすぎました。トイレに行ってきます」
彼がトイレに立つと、美沙も夕食の準備のために立ち上がった。
フライドチキンは面倒だと思ったけど、自分で作ってみるのも悪くはないと思った。
なにより、食べてくれる人がいるだけでやる気が出てくる。
油を温める。
水の流れる音が聞こえてきて、ガリ勉くんが居間に戻ってきた。
「何か手伝いましょうか」
「ううん。ガリ勉くんはそっちに座ってて」
「ウサミミさん、無限不可能性ドライブの説明って理解できましたか?」
「ぜんぜん。だからつまんなかった」
『銀河ヒッチハイクガイド』の話だ。
美紗にはSFは難しかった。
最初のコメントを投稿しよう!