待ってましたクリスマス

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「二人とも、たぶん別の人と一緒にいるよ。いわゆる不倫ってやつだね」 「なるほど。いわゆるW不倫ってやつですか」 「そう、いわゆるクリスマスW不倫ってやつ」 ガリ勉くんは、空いた料理の皿を重ねた。 そしてその場で立ち上がる。 「次の料理が出来上がったみたいなので、僕が持ってきますね」 キッチンの方へガリ勉くんが歩いて行く。 気付けばオーブンの音が消えていて、ピザが焼き上がったようだった。 「いいよ、ガリ勉くん。私がやるから」 彼の後姿に言い様のない不安に駆られて、美沙は立ち上がった。 長く座っていたせいで頭がクラリと揺れる。 体勢を崩した彼女が倒れそうになって、ガリ勉くんは慌てて彼女の体を支えた。 彼が安心してホッと胸を撫で下ろすと、美沙は涙目で彼の顔を見つめていた。 あぁ、まだ僕は。もう少しこの子を守らなくちゃ。 そっと美紗の体を抱きしめて、ガリ勉くんは彼女の背を優しく叩いた。 首の後ろからせぐりあげる声が聞こえてくる。 やっぱり泣いているようだった。 「大丈夫。愛されています」 「……一人にしないで」 「あなたは一人じゃないです。愛されていますから」 W不倫なんて、わりと、どこにでもある悲しい家族事情だと思う。 どこにでもあるけど、悲しいから悲しい。 美沙が肉体的な触れ合いに充実を覚えたのも、そういう経緯があったからなのだろうか。 それでも、真相なんて美沙本人にもわからないことだった。 ガリ勉くんは下手な推測や憶測をすることをやめて、彼女の体を起こす。 「ケーキ、先に食べちゃいます?」 甘いものは人を元気にする。経験則。 特に目の前のウサミミクソビッチは甘いものに弱い。 「うん」と言ってうなずいた美沙に、ガリ勉くんは優しく笑いかけて、冷蔵庫からケーキを取り出した。 「「デカッ!」」 いざ箱から取り出してみると、思っていた以上に大きかった。 これは二人がかりでも今日だけじゃ食べられない。 「残った分はまた後日ということで」 「待ってるよ。年越しそば、作ろうか?」 「そばも打てるんですか」 おだやかにクリスマスの夜は更けていく。  
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