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翌日の話
世間は箱根駅伝でにぎわっているけれど、家にテレビのないガリ勉くんは見ることができない。
だからバイトである。
年末年始は特別手当てがつくので時給が良いのだ。
美紗から「箱根駅伝見てる?」とかいうメールが来ていたけれど気にしない。
書店の休憩所に小さいテレビがあるが、無理矢理に地デジ対応したアナログテレビなので見る気も起きない。
「とはいえ、お客さんなんて誰も来ないですよねー」
独り言が静かに響く。
ちらほらと客も見えるが、年末年始にわざわざ本を買いに来る人も珍しいだろう。
雑誌コーナーにいる立ち読み客が目立つ。
いつもなら立ち読み客にイラッとするところだが、きっと家族に付き合わされたりして大変なのだろう。
年始から暇つぶしなんてしなくてはならない世のお父さん方に同情した。
モール内には初売りや福袋の関係でにぎわっている店舗もあるが、書店のレジに並ぶ人は今朝から一人もいなかった。
ていうか、箱根駅伝なんて走る長距離選手は年末年始も返上で走っているんだろうか。
そう思うと、急に馬鹿らしい連中に思えてきた。
この寒空の下、何キロも走るなんて正気の沙汰ではない。
年末年始の風物詩とも言える競技を脳内で嘲笑しつつ、ガリ勉くんは自分の進路について考える。
大学に入って、彼らのように熱くなれる何かを見つけられるだろうか。
いままでは惰性で、なんとか生活することに必死で自分の将来について真剣に考える機会などなかったのだ。
ただ生きることに必死だった。
「あるいは、そんな心配は必要ないのかもしれないですねー」
宇佐美美沙はどんな未来を歩むのだろう、とか。
ガリ勉くんは一瞬だけ考えて、せつなくなってやめた。
彼女は大学生になるだろうか。
自分は大学生になるだろうか。
あと、どれくらい一緒にいられるのだろうか。
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