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翌日の話
昨日買った福袋を届けに、美沙の家に行くと、大量のお餅が余っていた。
ガリ勉くんはそれを指さしながら、開口一番に
「いただいていいですか」
「別にいいけど。ガリ勉くんって見た目細いのに食い意地張ってるよね」
「食べられるときに食べておくっていうのが染み付いているので。これでも貧乏暮らししてるんですよ」
生活保護とか、保護施設とか、手近なところで言えば奨学金とか、手段はいろいろあるだろうに。
美沙はそう思いながら、一人で生計を立てているガリ勉くんにあきれる。
なんだかんだバイトを続けているガリ勉くんだけど、それでも不思議と美沙と一緒にいる時間は増えたし、成績も下がったという話はない。
時間の使い方がうまいのかもしれないな、と美沙が言う。
「読書の時間が減ったんです。最近じゃ一週間に一冊読み終えれば良い方ですよ」
「私と本どっちが大事なの!」
「本です」
言っていることとやっていることが矛盾している。
こうして美沙の家に来ちゃってるし。
素直じゃないガリ勉くんに美沙は頬を膨らませる。
その表情を見てガリ勉くんは膨らんだ餅を連想した。
ぐぅ、っとガリ勉くんのお腹が鳴る。
ガリ勉くんは顔を真っ赤にしつつポーカーフェイスを気取った。
「空腹です」
「お雑煮とか食べる?」
「いただきます」
ガリ勉くんがそう言うと、美沙がすぐに出来上がったお雑煮を持ってきた。
準備が良すぎて、もはや夫婦のごとく阿吽の呼吸。
なんて、美沙は思ってまたバツが悪くなる。
ガリ勉くんは、そんな美沙の葛藤なんてつゆ知らずに、満足そうにお雑煮を頬張る。
「おいしいです。ウサミミさんは料理の才能があるかもしれませんね」
「そうかしら。あんまり思ったことないなぁ」
たしかに、さいきん急に料理がうまくなった気もする。
何か理由でもあるんだろうかと考えると、目の前の少年と目が合った。
(これ以外かんがえられないよなぁ……)
「あーもう、ガリ勉くんは私をどうしたいわけ!?」
「急にどうしたんですか?」
「なんでもないですぅ!!!」
美沙は自分もお雑煮を食べようと思って立ち上がり、キッチンに戻った。
食べてくれる人がいると料理も楽しくなっちゃったんだよなぁ、とか、ガリ勉くんを喜ばせたくて頑張ったところあるよなぁ、とか。
そんなことを悶々と考えた。
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