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翌日の話
「なんだかんだ、月末には中間テストですよ」
「三学期って短いくせに中間と期末両方やるの良くないと思うのよ」
ぶーっと頬を膨らませて美沙が突っ伏す。
ガリ勉くんは日本史の教科書をめくりながら、美沙の頭頂部に指を突き立てる。
「もうすこし頭を使って過ごしていれば、いい成績がとれるんじゃないですか?」
「んー、でも暗記物とか、あまり得意じゃないし。むしろ頭を使う系だったら最近は調子いいんだよ。数学とか」
「おや、意外ですね」
「昔と比べて頭が冴えてるっていうか。慣れたっていうか」
テストだからといって下手に力むことがなくなった。
普段からの練習の成果だったり、ガリ勉くんとの答練の成果だったり。
ガリ勉くんは教科書の開いているページを美沙に向ける。
「言葉で覚えることも重要ですが、教科書を画像として覚えるっていうのも効果的です。どこに欲しい情報が書かれているのか、位置と情報を関連させて覚えることによって、テストのときに思い出しやすくなるって感じです」
「へぇ。右脳も使う的な?」
「右脳も使う的な」
ガリ勉くんはうなずきながら言葉を続ける。
「そういえば、人間は頭だけで物事を記憶するわけではないらしいです」
「そうなの? 脳細胞が覚えるんじゃないの?」
「ほとんどのことは脳細胞だけが記憶しています。だけど、心臓にも物事を記憶する細胞が含まれているって話もあります」
実際、心臓移植を受けた患者がドナーの記憶を引き継いでしまう、ということもあったらしい。
「ハートで覚えるんだね」
「ハートです」
「ソウルだね」
「魂とは関係ないんじゃないですかね……」
「スピリットだね!」
「もう言いたいだけですね、それ」
ガリ勉くんは首を横に振って、日本史の教科書とあらためて向き合う。
美沙は開いたノートの上に「宇佐美美沙」と書いて、ガリ勉くんの前に広げる。
「ハートで覚えておいてよ」
「もう、覚えてますよ。昨日のあれは冗談ですってば」
「冗談でもタチが悪すぎるよ」
ガリ勉くんは肩をすくめて溜息をもらす。
「それじゃ、僕の本名は覚えてますか?」
「え、ガリ勉くんでしょう?」
「そんなゆるキャラみたいな本名でたまるか!」
「覚えてる覚えてる。おぼえてるよー」
「答えてください」
「覚えてるって」
うわー。
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