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翌日の話
どんよりとした天気が続いている。
たまには心地よく朝日でも浴びながら登校したいものだとガリ勉くんは灰色の空を仰いだ。
「おはよう、ガリ勉くん!」
後ろから勢いよくタックルを喰らって、ガリ勉くんはよろめく。
むにっとした感触が背中に伝わってきて、自分に抱きついてきた相手がどうやら女性であることを察する。
そして、そんなことをしてくる人間をガリ勉くんは一人しか知らない。
「おはようございます。ウサミミさん」
「あいかわらずクールだね、ガリ勉くん。しっかり押し付けたから、おっぱいの感触は味わったくせに」
「味わい深いおっぱいでした」
「それはどうも」
「それよりも、どうしてここにいるんですか。ウサミミさん、また男の家から直接登校ですか?」
あきれた表情で尋ねるガリ勉くんに、美沙は両手を振って否定する。
「違うよ! 今日からローソンでキャンペーンやるから、ローソン寄ってから学校行きたかったの」
片手にぶらさげたビニール袋を持ち上げて彼女は言う。
そこからはみ出した数冊のクリアファイルが見えて、ガリ勉くんは美沙が昨日そんなことを言っていたのを思い出した。
対象商品を購入すると抽選で人気の女性アイドルグループのイベントチケットが手に入るとか。
ガリ勉くんはそのアイドルグループの名前も聞いたことがなかったが、美沙にしたら信じられない話らしい。
もはや彼女たちの名前は一般常識と言っても良いレベルだとか。
いくらなんでも大袈裟だとは思うが、ガリ勉くんも美沙がどんなアイドルが好きなのか知るために、昨日の夜に少しだけネットで調べたりした。
「それで、そのアイドルグループの商品を買ってきたんですか」
「そうそう。一番人気のアイちゃんの商品は朝早く行かないと売り切れちゃうからね。七時から販売開始で、六時前から店内で待ち伏せちゃったよ」
ガリ勉くんは昨日の夜に画像検索したときを思い出して、アイちゃんの顔を思い出す。
「たしかに可愛いですよね、アイちゃん」
「私とどっちが可愛い?」
なんて無謀な挑戦をするウサミミだろう、とガリ勉くんは半分あきれながら。
「どっちも可愛いですよ」
と無難に返した。
なのに顔を真っ赤にした美沙にぽこぽこと殴られた。
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