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翌日の話
イヤホンからしゃかしゃかと音を漏らす美沙に、ガリ勉くんは特に気にするでもなく読書を続けていた。
そんな音楽を聴くくらいなら別に目の前の席を陣取らなくても良いだろうに。
ページをめくる手を止めて、ガリ勉くんはふと顔を上げる。
目をつむって音楽に聞き入っている彼女はそれにも気づかない。
「ばーか」
少し控えめに、それでも教室中にはハッキリと聞こえるような大きさで、ガリ勉くんは美沙を罵倒してみる。
「中間テストの結果が返却されましたけど、どうしてあなたは学習しないんですか。また期末テストで僕に泣きついてくるんでしょうね。僕だって自分の勉強がありますし、いつまでも僕がいるとは限らないんですよ。来年になったらクラスも変わってしまうかもしれませんし、そうしたらあなたはいったいどうするつもりなんだか。まぁ、あなたのようなクソビッチなら成績の良さそうな男の子をたぶらかして勉強を教えてもらうのも楽勝なんでしょうね。まったく、その被害者も気の毒ですね。こんな淫乱女、どんな性病を持ってるのかもわからないってのに」
「おいおい言いすぎ言いすぎ」
途中から、美沙は苦笑いでガリ勉くんの言葉を聞いていた。
「曲と曲の合間にガリ勉くんの声が聞こえてきたわよ。いくら音楽聞いててもそこまでハッキリと悪口言われてたら気付くっての」
「えぇ、気付くでしょうね。気付くと思いました」
「わざとかよ!」
ガリ勉くんはいつもの無表情のままうなずく。
そんな彼に美沙は、はぁっと息を吐いて肩をすくめた。
「わかったわよ。音楽を聴くのをやめればいいんでしょ?」
「どうしてですか」
「私に相手してほしいからそんなこと言ってたんじゃないの?」
ガリ勉くんは口元に力を入れてポーカーフェイスを保とうとするが、耐えられなくなり表情を崩す。
それで彼もあきらめて本を閉じ、両手を挙げて降参のポーズ。
「何の曲を聞いてたんですか?」
「どこにでもいるような女性歌手の曲だよ。よくある失恋の歌」
「失恋したのですか」
「してないよ。ちなみに、しばらく恋もしてない気がする」
「そうですか」
「ちなみに、性病は持ってないよ」
「そうですか」
「ちなみに、中間の成績が悪かったのは、また期末テストの時期に、ガリ勉くんにかまってもらうためだよ」
「あなたは本当に馬鹿ですね」
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