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翌日の話
オムライスが食べたいな、と美沙は唐突に思った。
何が原因だろうかと思ったけれど、さっきスマホで見たアイドルのブログで、オムライスの写真が載せられていたせいだろうなと思った。
ふわとろオムライス。食べたい。
「ねぇねぇ、ガリ勉くん。ガリ勉くんってオムライスは何派?」
「質問の意図がわかりませんね。オムライスの派閥って何ですか」
「正統派の、薄焼き卵でご飯を包んだやつか、ふわとろ卵をご飯にかぶせたやつ」
なるほど、とガリ勉くんは首をかしげる。
「薄焼き卵の方ですかね」
「敵だね」
「急に敵対関係に立たないでください。なんですか、ウサミミさんはふわとろ派ですか」
「どっちも好きだけどね。今はふわとろが食べたい」
「敵ですね」
「急に敵対関係を認めないでほしい。どっちも好きだって言ったじゃん!」
「そんなふわふわした立ち位置のあなたはきっと根っからのふわとろ派ですよ」
意地悪そうな顔をしてガリ勉くんが言う。
美沙はちょっと涙目で腕をぶんぶん振る。
「なんでガリ勉くんは私をいじめるときだけ楽しそうなの!?」
「べつにそんなことはないですよ」
いや、めっちゃ楽しそうです。
美沙がうーっと唸っている間に、下校時間を告げるドビュッシーが流れる。
ガリ勉くんは口端に笑みをたたえたまま、手に持っていた本をカバンにしまった。
「なんだかオムライスが食べたくなっちゃいましたね」
「計算通りー!」
自分がオムライスが食べたかったから、オムライスの話をすればガリ勉くんもオムライスがたべたくなるだろうと踏んでいた美沙。
彼女の思惑通り、ガリ勉くんの食指を刺激できたようで、彼は腑に落ちない様子だったが諦めたように肩をすくめる。
「帰り、一緒にオムライス食べに行きますか」
「ガリ勉くんのおごり?」
「嫌です。むしろ、僕の食欲の責任をとってほしいくらいです。おごってください」
「絶対やだー」
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