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ゆづるに手を引かれ、私はスケートリンクで足、足、手の三点のみを頼りに身体を起こそうとする。
「生まれたての小鹿みたいで可愛いけど……やっぱり急にスケートは無理だよね。せっかくの誕生日なのに……ごめん」
「いいんだってば! ゆづこそ、公式大会も近いのに練習休んでまで一緒に過ごそうとしてくれて……私、ホントに幸せだよ」
するとゆづるが私の腰を抱き上げて、少し寂しそうに目を伏せた。
「絢こそ……今日は旦那さんに何て言って出てきたの? 僕の方だよ、いつも会いたいってわがまま言って無理をさせてるのは」
「ゆづ……」
そう、私たちはいわゆるひとつの文化的な関係。
人の妻でありながら、こうして嘘をついてまで年下の恋人との束の間のひと時を持つ、罪深い女。
そしてゆづるは……今、もっとも旬な世界的フィギュアスケーター。
今日はマスクとメガネで正体を隠し、私と秘密のリンクデートをしてくれている。
「……そろそろ出ようか。この後は素敵なディナーと言いたいところだけど、外で食事なんてしたら僕は目立つから……。絢、僕のウィークリーマンションに来てくれないか」
「…………え……」
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