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「そうか、キーワードだけではどうにもならないのか」  そのときドアが開く音がして、クニとテルが顔を覗(のぞ)かせた。お調子者のクニがいう。 「おー、いたいた。朝早くから、どこにいってたんだよ。せっかくの文化祭なんだから、楽しまなきゃもったいないだろ。3年女子のナイチンゲールカフェか、2年女子の巫女(みこ)カフェか、1年女子のワルキューレカフェにでもいかないか。どこも行列ができてるから、早くしないと午後の試合に間にあわなくなるぞ」  ワルキューレは北欧神話の闘いの女神だった。戦死した兵士を天国に連れ去っていくという。縁起の悪い話だ。テルの表情は真剣だった。 「サイコが白いローブ姿で、ウルルクコーヒーを給仕してくれるらしい。タツオ、おまえ、カザンとの試合の前にサイコになにかひと言声をかけてやらなくていいのか」  あの東園寺(とうえんじ)崋山(かざん)でさえ、じかに別れを告げにきている。カザンのいう通り自分が病院送りになり養成高校を中退しなければならないのなら、サイコと話す機会は今日の午前中で最後かもしれない。
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