霊――

3/6
前へ
/604ページ
次へ
 明日、持っていく予定のポーチを手に、洗面所に立っていた。  洗面所は部屋の中程にあり、廊下とは離れた位置にあるのに、何故、こんなに聞こえるのだろうと思った。  ゆっくりと、踏みしめて歩くような特徴的な足音。  ポーチから取り出しかけていた小瓶を強く握り締め、息をひそめ、じっとしていた。  案の定、この部屋の前で、ピタリとその足音が止まる。  そのまま、動かない。  まるで我慢比べのように、自分もまた、動かないでいた。  そのとき、階段を上がって来る軽快な足音が聞こえてきた。  ビニール袋のカサカサと揺れる音。
/604ページ

最初のコメントを投稿しよう!

906人が本棚に入れています
本棚に追加