灰色の月、花火の匂い

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「へえ、その世代でこれくらいって、高いですね」 顔も知らない相手に、勝手に親近感。 「じゃ、昼休みに一回合わせてみましょ。 丈を調整しないといけないかもしれないし」 もう松村さんはウキウキしている。 「あの、ご迷惑じゃ・・・」 「あのねー、うちの愚息を見たでしょ。 うちはあれの下にもう一人、背ばかりでかい息子がいるの。 女の子に浴衣を着せるなんて、もう憧れの中の憧れだったのよ!」 力説していらっしゃいます。 「女の子って、ふわふわってしてて、甘くって、もう~!」 言葉にならないらしい。 いつもは冷静沈着な彼女の、意外な一面。 圧倒された私は、もう言いなりだ。 私は女の子っていうほど、若くも可愛くもないのが申し訳ないけれど、松村さんが楽しそうなので良しとする。 「あれ」 会社の前で、ばったりと森主任に会った。
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