灰色の月、花火の匂い

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そのやりとりで、固まっていた主任と私の空気がほぐれた。 「びっくりしたー、変われば変わるもんだね」 「それ、微妙に嬉しくないです、主任」 私が軽くにらむと、彼は苦笑いした。 「え、両角さん、浴衣似合うねぇ」 と、合田課長代理がつんつんと、隣をつつけば、新条さんもうなずく。 「いえ、松村さんの凄腕のおかげかと…」 「はいはい、ショーはこれくらいにして、そろそろ行かないと」 私が困惑しているのがわかったのか、彼女が助け舟を出してくれた。 「じゃあ、行こうか。 車は駐車場なんだけど、そこまで歩ける?」 過剰な女の子扱いは、こそばゆくて仕方ない。 ので、私はぶんぶんと手を振った。 「それくらい、歩けますって」 なぜか壮行会のような見送りを受けて、私たちは事務所を出た。 駐車場は、ビルの地下にある。 履きなれない下駄の、カラコロという音が、耳に心地よい。
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