灰色の月、花火の匂い

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ビルの裏口から入って、地下に行こうとした時。 「あ、森さーん! 探していたんですよっ、もう」 甘い声で駆け寄ってきたのは、しっかり浴衣を着てメイクばっちりの高井さんだった。 「今日、〇〇神社で夏祭りがあるんですよ。 一緒に行こうと思って」 行きませんか、じゃないあたりが、彼女の肉食面だろう。 しかも、一緒に行くのが前提での、この準備。 「あ、そうなんだ。 でも…」 彼が困ったように私を見た。 彼女もそれで、やっと近くに立つ私に気付いた。 でかい私の存在が、目に入っていないとは、彼女も重症か? 「え、何で両角さん?」 何でとは、結構失礼だと思う。 まあ、私が相手では妥当かもしれないが。 彼女の視線が、一気にきつくなる。 「森主任、やっぱりいいですって。 もともと、電車で行くつもりだったんで、高井さんとどうぞ」 「そんなわけにいかないよ。 ちゃんと送るから」 「考えてみたら、ついででもないのに先輩に送ってもらうなんて、失礼な話ですよね。 じゃ、お疲れ様でした」
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