灰色の月、花火の匂い

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早口で一気に言って、私は方向転換をしようとした。 がし。 グンッと後ろに引かれて動けない。 手首と浴衣の袖を、森主任がつかんでいる。 「森さん、両角さんがいいって言ってるんだから、私たちで行きましょうよ」 「そうそう、私は全然問題ないんで」 女二人がかりで言うが、彼は手を離さない。 浴衣の袖、取れないだろうな…。 「何でそう冷たいんだよ、史信ちゃんは。 俺が送るって、松村さんに言ったのに」 「何で森さんが送るんですか! 一緒に行くんじゃないんですよね?」 高井さん、頑張ってくれ。 「俺の甥っ子と、行くんだって。 だから、肉親の俺が、送っていくのは自然だろ?」 私は、時間がおしているのが心配だった。 電車で行くなら、もう出ないと間に合わない。 もうこうなったら、仕方ない! 「じゃ、高井さんも、一緒に乗ってもらいましょ! 私は、直人君との待ち合わせまで、同行ってことで。 いいですね、はい、じゃあ行きましょう」
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