灰色の月、花火の匂い

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ああ、もう本当に面倒くさい。 埒のあかない押し問答にうんざりした私は、森主任に袖を取られたまま、高井さんの腕を引っ張ると、駐車場に向かった。 そして、現在の状況は。 助手席にどちらが座るかで、またしても彼と彼女がもめ、結局女子二人が後部座席に座ることとなる。 待ち合わせ場所は、神社の最寄り駅前の、コインパーキングの入り口。 「史信っちー、こっちこっちー」 元気な直人君の声。 傍には、お腹が少し膨らんだ女性と、この前会ったお父さん。 私は会釈しながら、急いで近寄った。 「お待たせしてすみません。 あ、改めまして、両角といいます」 まずは、母上にご挨拶。 彼女は羽田亜希子(はた あきこ)さん。 小柄で正統派の美人さんだった。 「今日は、息子の誘いに乗ってくれて、ありがとうございます」 気さくな人らしく、電話で連絡を取り合った時から、話しやすかった。 「先日は、失礼しました」 お父さんにも挨拶をすると、なぜかぼんやりしていたようで、慌ててペコッと頭を下げた。 「父さん、また仕事モードか?」 「違うよ、両角さんの浴衣を見て、娘だったら、こういう格好をさせられるなぁと思ってた」
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