灰色の月、花火の匂い

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まだ日の名残りを留めた空の下、裸電球が連なって、にぎわう雑踏を照らす。 何だかわからないたくさんの音やら匂いやらが、わっと勢いよくなだれ込んでくる。 そんな中を、直人君ご一行が、彼の動きに合わせて移動していた。 私は、亜希子さんと並んで歩いている。 彼女は森主任と同い年なので、私とも年が近い。 「こんな風に出歩くのも、実は久しぶりなんだ」 「体調、落ち着いてきたみたいで、良かったですね」 「ほんと、今日行けなかったら、直人に恨まれるところだったわー。 すごーく、楽しみしてたから」 「お祭、好きなんですね」 「それもだけど、史信ちゃんと行きたいからよ!」 すっかりくだけた口調で、いたずらっぽく笑う。 「私も、楽しみしてましたよ」 「ありがとうね、つきあってくれて。 本当は、他に約束があったりした?」 一瞬、星咲君の顔が浮かんだ。
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