灰色の月、花火の匂い

42/52
前へ
/525ページ
次へ
私の一瞬の間で、彼女は何かを感じたらしかった。 「大丈夫だったの?」 「あ、全然。 約束してたわけじゃないので」 「…もしかして、彼氏?」 「いないですって!」 慌てて否定するけど、彼女の目は、じっと私に注がれている。 「直人は、いないって言ってたけど…」 「私、そういうの、もういいんです」 思わず、口にした。 してから、焦った。 今のは、まずかったかな。 「何か、あったの? あ、無理に話してっていうんじゃないの。 初対面の人間に、話せることじゃないだろうし。 ただ、誰かに吐き出せるなら、その方が楽なこともあるから」 また、星咲君のことを思い出した。 課長とのいざこざの時、彼も、亜希子さんみたいに、寄り添ってくれた。 そして、セイさん。 私の話を、静かに受け止めてくれた。
/525ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1437人が本棚に入れています
本棚に追加