第1章

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助けてくれたのは、幼い頃から弾いていたチェロだ。 音楽を専門に学べる名門スクールに入学できた。 そこの学生たちは変わった性格の持ち主ばかりだった。 他人の容姿もそれほど気にしない。 容姿よりも音楽性や才能や技術やそれらを高める努力を評価している。 課題をこなすのに精一杯だった日々のはずなのに、のびのびとして気楽だった記憶しかない。 奏は・・・・確かにオレの容姿を気に入っているみたいだけど、それだけじゃない気がする。 少なくとも変質者ではない。 ジュエリー職人でゲイ。 あの部屋を見るだけでも美意識の高さがわかる。 それならそれで、彼の美意識を十分に刺激できた自分の容姿に感謝すべきなのだろう。 チェリストのゲイだって似たようなもんだし。 だが、あくまでも職人と言い張るあたりがとても真面目で誠実に思える。 まるで日本人の見本みたいに。 ああ、だから、あの朝、起きれなかったことを後悔しているんだな・・・・ で、オレはというと、そんなかわいそうな彼を起こさずにパンを買いに出た。 そこまでトラウマになっているのなら、オレがいなくなっていても奏のもとにちゃんと戻ってくることを、彼のハードディスクに上書き保存しておいた方がいいと思って。
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