第1章

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「ラリー、あとでチェロを聴かせてくれないか?」 「もちろん。弾いてあげるよ。奏はスペシャルだから格安でね」 「有料?」 「まさか」 くだらないやりとりに笑い合って、触れるだけのキスをする。 曲は何がいいだろう。 休日のパリの、穏やかで幸せな朝を彩る一曲・・・・ ここは、やっぱり、無難だけど、バッハの無伴奏チェロ組曲で。 クラシックに疎い奏でも必ず聴いたことがあるはずだ。 そうと決まれば、まずは腹ごしらえ。 オレはもう一度、奏の唇にキスをしてキッチンに向かう。 冷蔵庫からトマトとレタスを出す。 レタスをちぎるオレの隣で、奏がトマトを切る。 オレの頭の中ではすでに、バッハの無伴奏チェロ組曲が鳴り響いている。 静かに、オレたちを邪魔しない程度のささやかさで。 fin
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