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突然背後から聞こえてきた声に驚き、フライパンを離してしまった。
晩御飯がサラダとスープのみになってしまう、と思ったと同時に脇から手が伸びている事に気付く。
「あっぶねー……俺のオムライスがダメになる所だった」
「ひ、聖……」
「ビビりすぎだろお前。俺のがびっくりした」
「ごめん、でも今日早くない?」
「そうか?」
フライパンを受け取り、時計に視線を移すと、真壁はひゅっと息を吸い込んだ。
「え、もう10時過ぎ!?」
「おう。そんな早くねぇだろ」
「悪い、なんかボーっとしてた」
「別に気にすんなよ」
けらけらと笑い、聖は綺麗に畳まれた洗濯物からボクサーパンツを取り出す。
そしてそれを振り回しながら、真壁の手元のフライパンや調理台に並んだ皿をちらりと見渡した。
「もうちょいかかるよな? 身体くせぇから先に風呂入って大丈夫か?」
「大丈夫だって、そんなに簡単に冷えないから」
「へいへーい」
風呂場に向かう聖が横切った時、タバコとともにカラオケ店独特の匂いがした。
匂いに煩い聖はバイトから帰るとすぐに風呂に入りたがる。
それを見越して、先に洗濯物を畳んで風呂の用意をする自分は随分と主夫じみてきたな、と真壁は人知れず笑った。
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