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聖が本当は何に苛立っているのかなど聞くまでもなくわかるのに、わざわざ話題を掘り返してしまった自身を真壁は胸中で叱咤し、がくんと俯いてしまった。
突然俯いた真壁を聖は椅子に座ったまま覗き込む。
背も高いし、よくよく見れば精悍な顔つきをしているというのに……どうにも真壁は自信という物を母親の腹に置いてきたようだ。
申し訳なさを顔全体で表す真壁を見て、聖は吹き出した。
「お前、んな捨てられた子犬みてぇな顔すんなよ」
「だって、聖、」
「気にすんなって。今から夏だし、暑苦しい中あの女の面倒見なくてよくなったの、実は嬉しいし」
「あの女って聖……」
「いンだよ。しばらく彼女とかいらねぇもん、今年はお前らと遊び倒す」
くしゃっと全開の笑顔を見せ、聖は勢いよくスポーツドリンクを飲んだ。
飲み込むたびに喉仏が上下し、渇いていた唇が雫で濡れた。
「ひじ、」
「ぶはー、真壁、ありがとなコレ」
一気に飲み干し空になったペットボトルを振り、腕で唇を拭うと聖はのろりと腰を上げた。
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