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真壁大和という男は、底無しに人が善い。
いつか怪しい壷を買わされるんじゃないのか、と心配になるくらいに。
男ふたりに踏み潰されていたというのに、怒りもせずへらりと笑うばかり。
「お前な、もうちょっと怒れよ。お前がそんなだからバカミヤが調子乗んだよ」
「調子乗ってんのはお前も一緒だろアホヒジリ。真壁の優しさに甘えやがって」
「俺のどこが甘えてるってんだよ」
第2ラウンドを迎えそうなふたりのやり取りに、真壁は慌てて間に割って入る。
「お、俺が好きでやってんだから、神谷が怒ることない」
「けどさー…」
真壁越しに聖を睨むと、神谷はわざとらしく大きなため息を吐いた。
ぺっ、と唾を吐くようなそぶりを見せて。
「真壁がいいならいいけど、別に」
「うん、わっ」
真壁の胸倉を掴み、ぐいっと自身へ引き寄せると、その耳元でボソリと呟く。
「……けど、このままだと自分がきつくなるだけだぞ。さっさとケリをつけるんだな」
「神谷……」
真壁だけに聞こえるよう囁かれた言葉は聖には届いていない。
情けなく眉尻を下げた真壁は、懲りもせずせへらりと笑っている。その表情に、神谷の眉間に深い皺が刻まれていく。
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