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「おい、何やってんだよ?」
ふたりのやり取りなど知る由もない聖は訝しげな表情を浮かべ、真壁の服を引っ張ってきた。
「……」
それを振り払うことなど、真壁は絶対にできない。
躊躇う真壁の様子を神谷はじとりと冷たい視線で見つめるが、今は口を挟む気は無いらしく短く息を吐いて足を一歩踏み出した。
「何でもねぇよ。……講義始まるぞ」
「あ?」
「聖、行こう」
「あ、おお」
代わりに神谷が真壁の腕を引いた為、軽く握っていた聖の腕は簡単に解けた。
神谷に腕を取られたまま歩いていく真壁と聖の間に、距離が出来る。
真壁の服を掴んでいた掌と、いつもよりずっと不機嫌な神谷の背中を交互に見つめた後、聖も後を追った。
「腹でも減ってんのかあいつ」と。能天気に呟いて。
いつだってへらりとしている真壁とは真逆で、神谷はいつも仏頂面で居る。顔の造りは可愛らしいくせに。
その為、聖は彼らの異変に少しも気付く事は無かった。
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