第1章

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私がある職業を志す、きっかけになった話。きっかけ、何かをするにはそれに伴う理由や動機が必要だ。たとえ話としてとある不良が妻と子供ができた途端。身の回りの一切を入れ替えて長距離運転ドライバーになったなんて話があるように、それは子供と妻をきっかけとした男の更正したという美談だ。 けれど、このきっかけというやつが善意ばかりを運んでくるわけじゃない。いくら安全を保証された国でも凶悪事件は起こるし、女性や子供を狙った変質者や通り魔が出たなんてニュースは珍しくもない。ほんの少し、ほんの些細な時間のズレさえあれば未然に防げた事件も多い、きっかけが繋がってしまったから、そう、これはきっかけの物語だ。平穏な日常の片隅に潜む小さな悪意、噂に紛れた真実はいつだって貴方のそばに隠れている。 「なぁ、雨合羽の少女の噂知ってる?」 と友達の一人が言った。その日は雨で数人で帰っている途中のことだった。私を含め数人はクラスの中でも仲良しで帰り道も同じだからと一緒に帰ることが多かった。その日は雨でみんな傘と長靴を履いてバシャバシャと水溜まりにわざと飛び込んだりして遊びながら帰る途中、彼が学校で噂になっている怪談を言った。 みんなは知ってるよーと返事をするけれど、噂に疎い私だけは知らなかったからどういうのと聞いた。 彼は私の顔を見ると得意げに笑いながら答えてくれた。 「雨合羽の少女ってのはな。こういう雨の日に現れて、俺らの中にそっと紛れ込むんだよ。いつも黄色い長靴と赤い合羽を着てるんだ、でも、誰もその子のことを知らない、顔も名前もわからない、体格から女の子だろうって話だけれど、男って言う奴もいるけれど、俺は女の子だな、だって男が雨合羽なんてダサいしさ、まぁ、それはいいとして、それでさその子の雨合羽はもとは黄色い色だったってなんでだと思う?」 わからないと答えた。そこで嫌な予感はしてたけれど、引くには引けなかった。彼の得意げな笑みにやめようとは言えなかったのだ。 「殺されたからだよ。だから、その血で真っ赤に染まってるんだ。通り魔に襲われてさ、で、今もさまよってるって噂」   私は怖くなり耳を塞いだ。ただでさえ、ここらへんでは変質者が出るから気をつけるようにとお母さんに言われていたのにますます怖くなる。 実際、変質者の話は事実らしく警察官がパトロールしていたし、そこに雨合羽の少女なんて噂まで結びつくと怖くて
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