第1章

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出歩けなくなってしまうと言うけれど、彼はケラケラ笑って、雨合羽の少女は噂だし、ついてくるだけでなにもしねーよと相手にしてくれない。ほかの友達も彼に同意するように頷いたりしていた。 私からしたら、その『ついてくる』というだけで怖いのに、血まみれの雨合羽なんて想像するだけでも嫌だし、その先に何が起こるか誰にもわからない、雨合羽の少女が全く無害なわけがない、もしかしたら私の誰かと入れ替わろうとしてるのかもと思うと不安だったが、誰も聞き入れてはくれない、所詮は噂なんだよと笑い飛ばすだけ、街中に現れる通り魔だって大人がなんとかしてくれると思ってる。私もそうしてほしいし、小学生の私達ではどうにもならないから、行き場のない不安が私の中にたまっていくけれど、あまりそういうことで怖がると仲間外れにされそうだった。 臆病というか、根っからの心配性なところがある私は石橋だってしっかり叩きながら進みたいタイプだけれど、結局、叩きすぎて一人おいて行かれるのも嫌な変な性格で、怖いちゃんと言えなかった。小学校でひとりぼっちになることは、仲間を失うこと、そうなると意地の悪い同級生達にいじめられる。ひとりでいることが悪いみたいに言われるのだ。 そういう子を見たことがある、私はなんとしてもこのグループから仲間外れにされないように必死だった。 それから数日後、担任の先生から通り魔が出歩いているようだから、ひとりで遊んだり、出歩いたりしないでみんなでグループを作って帰りなさいと言われた。 私は一人、席に座ってどうして、そういうことを言うんだろうと思っていた。安全のためなんだろうけれど、わざわざ言ってしまうと興味を持って逆に探検しようぜとなるかもしれないのに、危機感よりも好奇心が勝ってしまう小学生には、通り魔や雨合羽の少女は、かっこうの的だ。 何よりもヒーローのように通り魔を捕まえたいなんて言い出さないだろうかと一人、不安になっていると案の定、そうなった。 雨合羽の少女の噂を話した彼が、帰り道、通り魔を探そうぜと言い出した。私は危ないからやめようと勇気を出したけれど、なに、おまえ、ビビってるの? じゃあ、お前だけ帰れよと言われ、仲間外れにされる恐怖からやっぱり行くと頷いてしまった。自分の臆病さが憎い。 結果だけ言えば、通り魔は見つからなかった。そもそもどういう奴なのかもわからないのに見つけようがない。
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