第1章

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言い出しっぺの彼は通り魔を見つけて、かっこよく倒す展開を予想していたようだけれど、私も含めほとんどは無理だと確信していた、あえて、言わなかったのは意固地になって絶対に探すと我が儘にまで付き合いきれなかったから、傘を振り回して不満をボヤいても通り魔が現れることはなく、ポツポツと降り出した雨粒が頬を濡らし始めると、さすがに帰ろうという雰囲気になった。 濡れてまで通り魔を探すつもりはない、急いで帰って、家にあるおやつでも食べながら宿題でもしよう、そう思い友達と別れ一人で早足になりながら帰る途中だった。 …………………………………ピチャ。 音がした。長靴で水溜まりを踏むような音が聞こえ、思わず振り返り、私は唖然とした。 そこにいたのは雨にうたれる女の子だった。いや、それだけならいい、彼女は赤色の雨合羽に黄色い長靴を履いて、フードを目深にかぶりこちらをジッと見つめながら歩いてきていた。 脳裏に雨合羽の少女の噂が浮かび、心の恐怖が膨れ上がる。赤色だと思っていた雨合羽は、まふで絵の具でも強引に塗りつけたようなくすんだ色をして、そのところどころに黄色い本来、雨合羽だったであろう色がかうつる、黄色い長靴には赤い斑点らしき物がいくつも付着している。ブワッと恐怖が私の中で膨れ上がり悲鳴にならない嗚咽が漏れた。 雨合羽の少女はついてくるだけで何もしないと聞いていても、その容姿が、雰囲気が、格好が、私を恐怖で塗りつぶす。悲鳴をあげたいのに喉の奥はつっかえ棒でも挟んであるかのように、カッ、ハッと嗚咽しかでない。 逃げなくちゃと足を動かそうにも、両足が金縛りにあったように縫い付けられていた。 ………………………………ピチャ、ピチャ。 降り始めた雨に濡れながら、水溜まりを踏むような足音を立てて雨合羽の少女がやってくる。けっして顔は見えないのに、からみつくような視線を感じた。 あのフードを取ったらどんな顔をしてるんだろう? 溢れ出した恐怖が余計な詮索をして、さらに気分が悪くなる。 雨合羽の少女が、何かを求めるように片手を上げて人差し指で何かを指差した。 きっかけ、たぶん、彼女が指差してくれなければ私はそれの存在に気づけなかったかもしれない、きっかけとして私は操られるように後ろを振り返り、そして二度目の恐怖に息を呑んだ。 大柄な男が、草刈りの鎌を構えて、私に近寄ってきたからだ。
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