第1章

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一度でも人を殺してしまったら、彼女は完全に別の存在になってしまう、そういう確信があった。どうしていいのかなんてわからない、正義のヒーローのように全てを解決できるわけじゃないでも、彼女が名前も知らない私を助けようとしたように、私も彼女を助けたかった。 右肩に刺さった鎌を引き抜く。痛みをこらえ、ぶらぶらと揺れる右肩を放置して慣れない左手で鎌を構える。 男が私を睨みつけた。生意気なと見下す視線があった。どうせ、小学生だと侮っているんだろう、鎌を構えただけで何もできないと油断してるんだ。その通り、足がガクガク震え、今にも叫びだしそうだ。殺される恐怖に心が支配されそうになる。逃げ出したい。臆病な私がやめるように叫ぶ。 やめない、やめない、やめない、どうせ、殺されるくらいならと足を踏み出そうとした瞬間、背後から新しい人影が現れた。 「そこまでよ。おとなしくしなさいっ!!」 力強い声と共に、その人は男に立ち向かっていく、そこからはあっという間の出来事だった。男のがむしゃらに振るわれる拳を、その人は簡単に避けて投げ飛ばす。関節技らしきものをきめて男の動きを封じ込めると何かの罪状、おそらく殺人未遂かなにかを言って男の両手に手錠かけた。 降り続く雨の中、その人は立ち上がり、こちらを振り向く、さっきまでの雰囲気とは違い人当たりのいい笑顔と共に、小さく敬礼。 「捜査のご協力、ありがとうございます。おかけで犯人を無事、逮捕することができましたなんてね」 と言い、私の手から鎌を手放していく、指を一本、一本、丁寧に外さなければならないほど私はそれを強く握りしめてきた。 雨の中、その人、女性警察官の温かい手に包まれて、私は張り詰めていた物が一気にはじけた。忘れていた右肩の痛みとは別の涙だが溢れ出した。そこから何を言ったか覚えていない、むちゃくちゃなことを言ったようにおもう。女性警察官は私のその話を背中におんぶしながら聞いてくれた。 バカにするでもなく、無視するでもなく、ただ、相づちうって頷くだけだったけれど、最後まで聞いてくれた。私は彼女の背中に背負われて、こう思った。この人みたいになりたい。この人みたいに誰かを助けられる人になりたい。そう強く願ったんだ。 それから月日は流れ、ビシッと警察学校で習った敬礼する。新しい制服、長年、夢見た警察官の制服を着て、私は目標のために突き進む
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