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デスクに置かれた学生証は赤黒く汚れていた。見た目も分かるが、鑑識の結果を経て、それは確証に変わった。学生証に付着していた赤黒い汚れは血痕であった。それも、所有者である明日香のではなく、全く別の人間の血。それも、ある事件の被害者の一人の血であった。
貞治は手を組み明日香に改めて、任意同行を求めた経緯を説明した。
「ここ最近、夕海町で発生している連続辻斬り事件。犠牲者は全員、鋭利な刃物で身体の一部分を水平に切断された状態で発見されています。そして、昨晩、新たな犠牲者が出ました。その犠牲者の側に、あなたの学生証が落ちていたんです。しかも、この血の付き具合は事件発生直後、血が固まる前に付着したことも確認されました。
しかも、事件前後、現場となった十字路から立ち去る、あなたを近くの住民が目撃した」
貞治は証拠品ともいえる、学生証をしまうと改めて明日香に尋ねる。
「いい加減に、話してもらえませんか?あなたは、被害者が死んでいた十字路で何をしていたのですか?」
それが、貞治が明日香から聞きたいことであった。
被害者が殺された事件現場に居合わせた明日香は何もせずに立ち去る。悲鳴一つ上げずにだ。普通なら、叫び声の一つでもあげてもいいはずなのに。仮に、声を上げられない状況だったとしても、救急車や警察、もしくは人を呼ぶなど手段は幾つもあったはずだ。今時、携帯やスマートフォンを所持していない学生の方が珍しい。なのに、彼女は何もしようとしなかった。いくら、他人に無関心の時代でもそんなことはあり得ないことだ。
「私も、こんなことは言いたくないんだ。だが、ここはハッキリさせた方がいい!」
貞治は法に触れないギリギリで取り調べを続けた。どうしても、明日香から話を聞かなくてはならない。彼からは、そんな強い使命感のようなものが感じらた。
貞治は立ち上がると同時に激しくデスクを叩いた。その衝撃で、デスクに置いてあった灰皿が飛び跳ね床に落ちた。
「お前が、被害者を殺して十字路から逃げたんじゃないのか!」
貞治は声を荒げ明日香に言う。
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