第3章

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………とは言ったものの。 自分のデスクに戻り 貰った企画書と睨めっこ フェアなんて初めてだし どうやったらいいのかわからない 誰かに、聞く? ダレニ? 「優香ちゃん優香ちゃん」 「はい」 コソッと美紀さんが私の耳元に唇を寄せた 「こういうときこそ伊庭部長じゃない?」 「え、ええっ? 無理ですよ、私あれ以来伊庭さんとは会ってないですし それに自分以外が得するの 嫌いな人なんですよね?」 ほんとあの人腹の中で 何考えてるかわかんなくて怖い 「私がそれとなく聞いてみよっか? もしかしたら案外オーケーしてくれるかも」 「…美紀さんが? いえいえそんなご迷惑は…」 「いいからっ ちょっと待ってて?」 なんてウインクしてサッと自分のデスクの受話器を取る …なんて行動の早い でもこうなったら私が横から口出すわけにもいかないから もう一度企画書に向き直る フェアっていかに目立ちいかにお客さんの手に取ってもらえるか、だよね? 編集長の企画をもとに 私なりにアレンジしたいから… 「優香ちゃんっ」 「はい」 「オッケーだって!」 「…ハイ?」 受話器を置きながらニコニコの美紀さん 部長クラスと渡り合えるって凄い 「今から30分くらいなら 話聞いてあげられるから7Fまでおいでーって! この間の応接セットのとこで待ってるって!」 「マジですか?」 「マジです。 ほら、さっさと行く!」 「は、はいっ!」 企画書と、ついでに経理にだす書類も持ってエレベーターに駆け込む …美紀さん恐るべし。 にしても……伊庭さんに教えを乞うなんてハードル高すぎぃいい! ――― 「編集ちょーう あの企画書最初から優香ちゃんに渡す気だったでしょ」 「んー?まぁなー」 美紀の言葉に歯切れの悪い返事をする編集長 (この様子じゃ上からなんか言われたなー? 本当に最近は上は優香ちゃんにご執心なんだから… でもあの子なら、きっと大丈夫ね) ふふっと笑ってまたパソコンに向かう 嬉しいような、寂しいような。 美紀の心は可愛い子を手放すような気持ちでいっぱいになるのだった
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