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「七穂!」
税関を抜けると、この1ヶ月半何度も脳内で思い浮かべた笑顔が待っていた。
「会いたかった」
嬉しい、と思う暇もなくぎゅうう~ときつく抱きしめられる。
ちょっと人前で! もう~、アメリカナイズされてるなあ。
「荷物は?」 恥ずかしさに俯きながら聞く。
「俺は昨夜着いたから、置いてきた」
哲は仕事の関係で、もう10年以上もボストンに住んでいる。2月のボストンなんて寒すぎて楽しめないというので、NYで落ち合うことにしたのだ。
「はい」
赤いバラ?
「バレンタインだろ?」
え?
「こっちでは男性が女性に贈るんだよ」
哲がちょっと照れくさそうに早口で付け足した。
「そうなんだ」
「まずホテルに向かおう」
右も左もわからない私は、哲に手を引かれるまま空港を後にした。
***
ちゅ。
こめかみに感じた生暖かい感覚に、まどろみから引き戻される。
「もうすぐホテルに着くよ」
「え?」 やだ、タクシーの中で寝ちゃったの?
「日本とは時差の関係で昼夜逆転してるからね。長旅だし、疲れたろ?」
「ここはどのあたり?」
「マンハッタンの南の方。ワシントンスクエアって所の近く」
NYでも俺の好きなエリアさ、と哲が付け加えた。
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