抱き寄せてそしてキスをして

5/22
前へ
/22ページ
次へ
「出なくていいの?」  私の髪にキスを始めた哲は、「いい」 と無視を決め込んだ。 でも携帯はしつこいくらいに何度も鳴る。 「あああっ、もう、何なんだよ」  耐えかねた哲はポケットに手を突っ込んで、携帯を取り出した。 スクリーンを見ていた彼の表情が険しくなる。 「七穂?」  哲が申し訳なさそうな声を出した。 「ちょっと急に人に会わなきゃいけなくなった。緊急みたいなんだ。1時間ほど出ていいかな。七穂は疲れているだろうから、休んでて」 「うん」 「ついたばかりなのに、ほんと、ごめんな」 「いいよ、気にしないで」  実は私にも用があるのだ。 *** 「綾菜のメモだと、この辺なんだけどなあ」 ふと目線をあげた。 「あった!」 ここは有名な女性下着専門の店。 外装からして、ど派手な赤とピンクで塗りたてられている。 「うあー」 入れるのかこんな店。がんばれ私。 ― ここなら勝負下着をいくらでも揃えられますよ。 そう綾菜は言ったけど。確かにそんなもの、持ってないけど。 でもねえ。 この、あて布が5センチ四方しかなくてあとは紐だけとか、これ、身に着ける意味あるのっ? いろんなモノが、はみだしまくりじゃないの。 手にとって恥ずかしくなって、慌ててラックに戻した。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

472人が本棚に入れています
本棚に追加