抱き寄せてそしてキスをして

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哲が誰かの肩を抱き寄せている。 栗毛の巻き毛の綺麗な女の人。 ふと彼女と視線が合った気がして、慌てて目をそらした。 うそ、、、。 どうしよう。 その人は誰? って聞いてやろうか? だけどなんだか聞いてはいけない雰囲気が、二人の間にあるような気がした。 ドキドキドキ。 いやな鼓動が痛いくらいに胸を叩く。 10年も離れていたんだ。 その間に誰かいたってあたりまえだ。 聞いてみようとも思わなかった。 今、彼の気持ちが私にあればいいんだと。 でも今はフリーだって再会したとき言ってたよね? じゃあ、あの人は誰? あんな親しそうに抱き寄せる人は誰なの? 別れた彼女が、私が来ると知って押しかけてきたんだろうか。 気がつくとまだコートを着たまま、ベッドの上に座り込んでいた。 どうやって部屋に戻ってきたんだろう。 窓の外はもう薄闇が降り始めている。 あれからどれくらいたったんだろう。まだあの人といるの? 胸の中が引っ掻かれるような痛みに顔をしかめた。 冷静にならなくちゃ。でもここにはいたくない。 哲の顔を見たら感情的になりそうで。 まだほとんど中身を出してなかったスーツケースの中身をまとめ、エレベーターでロビーに下りていく。 もう二人の姿はなかった。 「お出かけですか? タクシーはいりますか?」 コンシェルジェがすかさず用を聞きに来る。 首を振って、回転扉に手をかけた。
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