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「夜、ホテルの部屋を抜け出してあの公園のあたりを歩いてたんだ。そしたら、誰かが馴染みの曲を演奏し始めて」
「馴染みの?」
「ん。『上を向いて歩こう』 という曲。こちらでもけっこう知られているんだよ」
「そうなんだ」
「そしたら、持ちこたえようと張り詰めていたのが切れてしまって、、、」 そこで哲は言葉を切った。
「泣いちゃったんだ?」
「まあね。誰かさんのせいでね」
「、、、ごめんね」
テーブルの下で、彼の手をそっと握ると、ぎゅっと握り返してきた。
「これ」
食べ終えた彼の目の前に、小さな包みを置く。
「何?」
「初めて作ってみたの。見てくれはイマイチだけど」
「チョコ?」
「ん」 恥ずかしくてぶっきらぼうなもの言いになる。
「ありがと。食っていい?」
「ここで?」
「うん」
私の返事を聞かずに、包みを開けると、一粒口に放り入れた。
「うまっ」
「そ、そう? よかった」
料理なんて、ましてやお菓子作りなんてめったにしないからなあ。
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