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「…言われてみれば、女にしては声が低かったな」
「でしょ?アメリカ人だから余計気付き難いのかもしれないね。僕も最初分からなかったから」
「けど、日本語が達者なのは何故だ?」
「ああ、僕が向こうにいるときに教えたからね」
「へえ……」
「お蔭で、僕も英語ならなんとか喋れるようになったよ。まぁまだ発音が変だって、ニコに突っ込まれるんだけどさ」
そう言って楽しげに笑うコイツに、何故か腹が立った。
何でコイツはこうも無神経なのか…。
(空白の7年間は、アイツと仲良くやってたわけか。なら、ずっとそうしてれば良かったんだ)
そう、苛立ちを覚える自分がもっと嫌だ。
底知れない嫌気と不安が、
俺の心を締めつけた。
「――…仕事戻る」
「え、…待って!いっちゃん!!」
呼び止める駄犬を無視して、俺は店へと歩を進める。
「いっちゃん!今夜いっちゃんち行くからっ。話しよう!」
必死に訴える駄犬の声を背に受けながら、俺は静かに店の扉を閉めた。
(なんで今更、こんなにイライラするんだ……)
俯きながら唇を噛む。
「唯月…大丈夫か?」
「え……、あぁ…何でもない」
心配げに声を掛けてくれた邦久に、
悪いと思いながらも首を振り言葉を呑み込む。
(今日、ここに泊まろうかな…)
そんな冗談とも取れる考えを脳裏に浮かべながら、
今は仕事に集中しようと深く息を吸った。
【ツンデレ王子と放浪わんこ2】おわり。
2016.2.24
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