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お砂糖を二つ入れて、スプーンでくるくるかき混ぜました。わたしは猫舌だから、まだ、飲めない。
「……大丈夫ですよ、かあさん。わたし、あなたのような商売はしませんので」
「……あら、そう?」
ならいいのだけど、と母はわたしから目を逸らして言いました。
「ええ。将来の夢は花嫁さんです」
「……」
「今、馬鹿にしたでしょう」
「いえ、そんなことないわよ。あたしだって、花嫁さんになりたかったもの」
「……ならなかったんですか?あなたの容姿なら、あなたを心底愛してくれる人くらいたくさん見付けられるでしょうに」
「うん、まぁ、そうなんだけど」
母がくるくるとコーヒーをかき混ぜます。なにも入れてないはずなのに。
「あたしのかあさん……あなたのおばあちゃん、歳を取ってうつくしくなくなっちゃったら、とうさんに殴られたり蹴られたり……ええと、DV?になっちゃったから」
くすり、と母が可愛らしく笑いました。
「結婚なんて、そんなものに夢を抱いたことなんて、なかったわぁ」
「はぁ」
「おぼろに、いい事教えてあげる」
すっ、とうつくしい所作で母がコーヒーを飲みました。わたしも飲もうとしてやめます。まだ、熱そう。
「こんな商売してたら、結婚しようなんて、言われないのよ」
「……まぁ、当たり前ですね」
「そうよ。さあ、帰りなさい。あんまり遅くなったら繊月が心配するわ。あの子、昔っから心配症だから」
「その心配症な兄は初めて母に会うわたしを一人で電車に乗せましたけど」
「あら、多分外で待ってるわよ」
「へっ!?」
「あの子もあたしの家を細かく知れて良かったってところかしら?連絡絶っちゃったからやっぱり心配してたのかしらね?」
「え、いや、ちょっと待ってください」
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