4人が本棚に入れています
本棚に追加
きょとん、とする母。いや、ちょっと、
「え?にいさんに言われたからお迎えににいらしたんじゃないんですか?」
「そんな訳ないじゃない。もう数年くらい前から連絡は取ってないのよ?」
「じゃあ、なんで、今日駅に」
「……聞いちゃう?」
「ええ、もちろん」
やっと飲める熱さになったコーヒーを一口飲みました。冷めたコーヒーは、苦い。
「なんとなく」
「……なんとなく?」
「なんとなく」
「今のわたしが考えてること、解ります?」
「『聞かなきゃ良かった』」
「その通りです。流石ですね」
コーヒーを一口で飲み干して、ソーサーの上に戻します。コートを広げたら、母にもわたしのしたいことが解ったようでした。
「帰るの?」
「はい。帰れって言ったの、あなたじゃないですか」
「そうだけど……ちょっと待って」
「いや、帰りますって。にいさんが待ってるかもしれないんでしょう?外は寒いし、暗くなっちゃうし、はやくしないと」
「いいから。たまには反抗期とかもいいかもよ?」
にっ、と母が笑みます。
何人もの男をオトしてきた、魔性の笑み!
「え、ちょっ」
「待ってて、すぐ戻ってくるわ」
「いやなにを言って」
るんですか、までは言わせてくれませんでした。自分勝手というか、自儘というか。
「……カップ、洗いましょ」
待つのを決めたわたしもわたしでしょうけど。
キッチンには、あまり生活感はありません。ちいさなフライパン、電子レンジ、赤くて丸い冷蔵庫。食器用洗剤をスポンジに含ませて、泡立てました。
*
「……普通に遅いんですけど」
カップを洗って十分。どこかでバタバタしてる音だけしか聞こえてきません。
行くしかない、とでも。
ふうとため息をついて立ち上がりました。
「……かあさぁん?」
最初のコメントを投稿しよう!