第1章

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きょとん、とする母。いや、ちょっと、 「え?にいさんに言われたからお迎えににいらしたんじゃないんですか?」 「そんな訳ないじゃない。もう数年くらい前から連絡は取ってないのよ?」 「じゃあ、なんで、今日駅に」 「……聞いちゃう?」 「ええ、もちろん」 やっと飲める熱さになったコーヒーを一口飲みました。冷めたコーヒーは、苦い。 「なんとなく」 「……なんとなく?」 「なんとなく」 「今のわたしが考えてること、解ります?」 「『聞かなきゃ良かった』」 「その通りです。流石ですね」 コーヒーを一口で飲み干して、ソーサーの上に戻します。コートを広げたら、母にもわたしのしたいことが解ったようでした。 「帰るの?」 「はい。帰れって言ったの、あなたじゃないですか」 「そうだけど……ちょっと待って」 「いや、帰りますって。にいさんが待ってるかもしれないんでしょう?外は寒いし、暗くなっちゃうし、はやくしないと」 「いいから。たまには反抗期とかもいいかもよ?」 にっ、と母が笑みます。 何人もの男をオトしてきた、魔性の笑み! 「え、ちょっ」 「待ってて、すぐ戻ってくるわ」 「いやなにを言って」 るんですか、までは言わせてくれませんでした。自分勝手というか、自儘というか。 「……カップ、洗いましょ」 待つのを決めたわたしもわたしでしょうけど。 キッチンには、あまり生活感はありません。ちいさなフライパン、電子レンジ、赤くて丸い冷蔵庫。食器用洗剤をスポンジに含ませて、泡立てました。         * 「……普通に遅いんですけど」 カップを洗って十分。どこかでバタバタしてる音だけしか聞こえてきません。 行くしかない、とでも。 ふうとため息をついて立ち上がりました。 「……かあさぁん?」
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