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「はーい!」
「もう、どこですか。はやく帰りたいんですよ」
「もう終わった!」
「はぁ?」
がちゃっ、と蝶番が壊れそうな勢いでドアが勢いよく開きました。
「ちょっと、かあさん」
「はいはい黙ってこれ着て」
「ほんっとうになんなんですか!?」
「……誕生日でしょ、もうすぐ」
ぐい、とのワンピースを押し付けられました。
「本当は新品がいいんでしょうけど、多分、これが一番似合うから。……いらないなら、それでいいから」
「……馬鹿ですね、いらない訳ないじゃないですか」
きゅ、と唇を尖らせて。
「着替えてもいいんでしょう、かあさん?」
「……ええ」
「かあさん、あなた気付いていないのかは知らないんですけど」
笑おうとしたら、頬の筋肉が引き攣りました。
母は自分の武器で上手に世を渡ったんでしょうけど。
かあさんとして酷く不器用なんだな、と。
「わたし、最初っからあなたのことかあさんって呼んでたんですけど」
微笑み一つ浮かべられない不器用なわたしは、少しはあなたに似てる。
「たまぁに服送ってくれてたの、知ってますよ」
「……馬鹿ね、こんなかあさんなのに」
「でも、あなたはわたしのこと嫌いじゃないでしょう?仕送りとか、してたのも知ってますし」
「いきなり即物的な方に持っていかないの。服送ってたくだりだけで十分じゃない」
「情緒的なものがわたしたちに似合うとでも?」
「それはそうだけど」
「じゃ、着替えてきますので。適当に部屋借りますよ」
「はーい」
拗ねたような顔をしたかあさんは子供じみていて。
これじゃあどちらが子供なのか解らないじゃない、と少し笑ってしまいました。
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